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第十話「お犬さま」
 むかし、福生のあたりは、武蔵野の原といって、草はぼうぼう、大きなはやしが しげっていました。くらい夜みちを あるいていると、たぬきやきつねに 化かされたり、オオカミに おそわれたりして、それはそれは こわいところでした。
 そのころ、熊川に、なかのいい 兄と妹が すんでいました。
 あるさむい冬の日、妹のおみつは、ふとした かぜがもとで、おもい病気になってしまいました。あたたかい 春がやってきても、病気は、ますます おもくなるばかりです。兄の市松は、いっしょうけんめい かんびょうしましたが、よくなりません。
 ある日、市松は、花かざりのついている 赤いくしを かってきました。
「おみつや、はやく じょうぶになって、このくしを かみにさして みせてくんろぃ」
「ま、きれえだ。ありがと、あんちゃん」
 おみつは、うれしそうに その赤いくしを、やせこけたほおに おしあてました。そんな妹をみて、市松は、もっとよくきく くすりをのませなければ、とおもいました。
 その日は、夜なべしごとは しないで、福生のくすりやまで、くすりをかいに いくことにしました。
 お金がなかったので、くすりだいのかわりにする 塩を、小さなかめに よういしました。そのころは、塩は、お金くらい たいせつなものでした。
 おみつが ふとんのなかから、
「あんちゃん。その塩の上に 炭火をのっけておくと、けものはきねえとよ」
 そうすれば、塩は 夜つゆでしめらないし、塩ずきのけものたちも 火をおそれて おそってこない、というのです。
「それから、もし あんちゃんのうしろに だれかがついてきても、ふりけえったり すっころんだり しねぇでよ。それと、あんちゃんのめえで だれかがまっていたら、『ごくろうさま』って、いえよぉ」
「ああ、わかったよ。そんとおりに すんからよ、しんぺいしねぇで いいべ。すぐ けえってくんからよ」
 そとは、まっくら。ほしも でていません。あいにく ろうそくも なくなっていたので、ちょうちんもありません。

 まっくらな はやしをいくと、なにか黒いものが 目のまえをサッ、とよこぎったり、あたまの上を ビューン、と とびこえたり、ちかくの草むらでギャオーッ、と ほえたりするので、市松は足がすくんで、まえに すすめなくなりました。
 でも、妹のために どうしても いかなくてはなりません。市松は ゆうきをだして、炭火のはいった 塩がめを、まえにつきだすようにして あるいていきました。

 村はずれを すぎたころから、ヒタヒタ ヒタヒタを、なにかが うしろをついてくるような 足音がしてきました。
「いまごろ だれだろう?」
 おもわず ふりかえろうとして、ハッと、妹のいったことを おもいだしました。足音は、どうやら 大きなけものみたいです。
 市松は、ヒヤヒヤ、ドキドキ‥‥。
 いきがつまりそうに なりながら、やっと玉川上水にでました。耳をすまして、うしろのほうを うかがうと、足音は もうきこえません。

「やれやれ、たすかった」
 ホッとして、ひや汗をぬぐいました。青梅橋までくると、こんどは 橋のまんなかあたりに、なにか黒いものが うずくまっていました。
−こじきかな、それとも よっぱらいが ねているのかな?−
 きみがわるいが この橋を わたらなければ、ずっととおまわりに なってしまいます。
 こわごわ ちかよってみると、人ではなくて、犬ににた 大きなけものです。市松は、にげだそうとしましたが、そのけものは、うなりもしないし かおもあげません。
 市松は、また 妹のいったことを おもいだしました。
(でも、このけものは、おらをまっていたんだべか。それに、けものにも『ごくろうさま』をいうんだべか)
と、まよいました。
 市松は、ビクビクしながらも、おもいきって いいました。
「ご、く、ろ、う、さ、ま」
 そして、足音をたてないように おっかなびっくり、へっぴりごしで 橋をわたりぬけ、やっと、くすりやに たどりつきました。
「くすりやさん、もう きびがわりぃの なんのって」
と、市松が そのはなしをすると、
「そりぁ、ひょっとして、御岳山の お犬さまだべょ。おくりオオカミが、とちゅうで さきまわりして、むかえオオカミになって 橋の上でまっていたんだべさ」
と、くすりやがいったので、市松は、あらためて みぶるいしました。
 くすりやは、
「こん夜は うちにとまって、あしたの朝、かえったらいいべょ」
と、すすめました。市松は、お茶をもらって すこしおちついたので、
「いや、オオカミは おっかねぇけど、はやくけえって、妹に くすりのませなくちゃ なんねえでよぉ」
と、れいをいって、市松は、大きな ちょうちんを かりることにしました。
 青梅橋まで もどってくると、オオカミは もう いなかったが、橋の上に 一本のくしがおちていました。
「あっ、これは」
 ひろいあげると、みおぼえのある妹にかってやった、あの赤いくしにそっくりでした。
 市松は ふしぎにおもい、はしるようにして かえりを いそぎました。
 みちばたの ところどころに、たぬきやきつねのしがいが ごろごろ ころがっていましたが、もう 目に はいりませんでした。

 家につくなり、
「おみつ、いま けえったよ」
と、声をかけましたが、ねむっているのか、へんじが ありません。

 市松は、ねている妹の まくらもとを みまわしました。でも、赤いくしは、どこにも みあたりません。
「おみつ おみつ」
 いくらよんでも、目をあけません。
 市松は、妹のひたいに そっと 手をあてました。ひたいは、石のように つめたくなって いました。
「どうしたんだ、おみつっ!」

 おみつは、しんでいたのでした。
 市松の目から、大きななみだが ポロポロ あふれてきました。
「そうか、そうだったんか。おめえが、オオカミになって おらを まもってくれたんだべ。ごめんよ、おみつ」
 おみつは、じぶんが 病気でしぬことを しっていたので、オオカミにすがたをかえて、すこししか のこっていない力を ふりしぼって、けもののでる こわい夜みちから、やさしい兄を まもってやったのでした。

 市松は、そのときから、御岳山のお犬さまを、心から 信心するようになった、ということです。

お母様へ
●お犬さま
 御岳神社の守護神・大口真神のことです。〔日本武尊が東夷征討のさい、御岳山に宿陣した後、次の地に出発しようとした時、大鹿があらわれ道をふさいだ。尊は山ニラをとって、その目に投げつけると、大鹿はたちまち山鬼の正体をあらわした。と、大山鳴動し、雲霧が湧き上がり、尊の一行は道に迷った。すると、どこからか白狼があらわれて道案内をしたので、無事に進むことができた。尊は狼にむかって「御岳へもどって、火難盗難の守護をしろ」と、命じた。〕という伝承があります。それで、上図のような狼の絵姿の神符を家の門口や戸袋に貼っておくと、火災や盗難よけになると信じられています。
●送り狼と迎え狼
 御岳山から暗くなってから帰ると、狼が後ろを守りながらついてきて、ふり返ったり転んだりすると、一気に襲ってきたり、また、人の先回りをして門口でまっている狼に、食物を与えるなど労をねぎらわないと、いつまでも帰らなかったそうです。
●青梅橋
 今の銀座通りは、その昔、青梅海(街)道と呼ばれ、玉川上水の掘削にともない架橋され、その橋名だけが残りました。現在の、ほたる通りにあります。
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